3日目・「幾年月」



【歌える古語版】幾年月 

by つきよ





【最初に】
古語に訳す際に、和歌をイメージした表現に落とし込む為にあちこちアレンジされています。
元々の歌詞から表現が変更されている部分が多少あります。
その為、古語にしたものを更に現代語に訳し直したものを付けています。


「幾年月」


むすぶ想ひ とくる言葉
風にたぐふ 文を追ふれば
浮かぶごとく 面影かをる
けぶり色づき初(そ)む春

頬に受けたる風
ほのかにひやひやと
想ひほとほる胸
しづめて吹く

合はす貝なき由(よし) 父(あて)に言ひ伝へり
返す歌 桜の枝に
しほたる文字

むすぶ想ひ とくる言葉
春のにほひ 君を思ほゆ
ふり積む想ひ こぼれ歌う
牡丹(ほうたん)の露に濡れ漬(ひ)つ

桜にほふ 春の巡る
文(ふみ)尋ぬる 指(おゆび)まどひて
袖も漬(ひ)ちて こころ乱れ
音にのみ風を知る

むすぶ想ひ とくる言葉
実を成す時 頬に風の吹き立つ
浮かぶごとく 面影かをる
けぶり色づき初(そ)む春


【現代語訳】


形を成す想い 溶けだす言葉
風と共に吹く手紙を追えば
浮かび上がるように面影が香る
ほんのり色を帯び始める春

頬に受けた風は ほんのりひんやりと
想いに熱を帯びる胸を 冷やすように吹く

「(私のような)貝殻に合わせられる貝殻はありません(縁談は無駄になったの)」と
父に伝えました
お返しの歌は桜の枝に 濡れて歪んだ文字

形を成す想い 溶けだす言葉
春の香り 君が思い起こされる
降り積もる(時間と共に積もる)想い 溢れ出して歌う
牡丹の露に濡れ染み込む

桜が香り出す 春が巡る
手紙を探す指が思い悩み
袖は涙に濡れ 心は乱れ 音だけに風を知れば

形を成す想い 溶けだす言葉
実る季節 頬に風が吹きつける
浮かび上がるように面影が香る
ほんのり色を帯び始める春


【解説】


■歌詞の内容のアレンジについて
古語に訳す際に、一番の目標は「メロディのついた和歌のような歌詞にしたい」でした。
自分が一番好きな和歌集である万葉集と古今和歌集の和歌を参考に言葉選びをして、和歌を詠む時の言葉選びを考えながら訳した結果、葛西さんが書いた元の歌詞をアレンジした部分が増えてしまいました……。
和歌の世界では本意(ほい)と言われているものですが、「作品の本当に伝えたいこと、本当のあり様」とはなんだろうか、ということを自分の中で突き詰め、多少本来の歌詞の表現と異なっても自分なりの解釈を古語に落とし込みました。


■部分解説


「むすぶ想ひ とくる言葉」


「幾年月」の歌詞全体に「水(涙)」「風」「花(春の色合い)」等のイメージが見えてきます。最初のサビはその3つのイメージを中心に表現する為、一部表現を変えています。「とくる」「浮かぶ」そして「むすぶ(結ぶ/掬(むす)ぶ)」、水の縁語になる言葉で構成しています。


「けぶり色づき初む春」


「けぶり」は「霞がかってぼんやりとした様子、美しくかすんで見える様子」の意です。「けぶり色づき初む」で「淡くかすんで染まり出す」様子。
「合はす貝なき由(よし)」
「合わせる貝がない」と「結婚させ(合はす)ても無駄になります、仕方がないです(甲斐なし)」の掛詞。女性の方から嫁に行くことを父親に向かって断るという表現、和歌の世界で目にしなかったので、「嫁ぎません」に当たる表現をどうまとめようか悩んで、婉曲に表現しています。


二枚の貝殻を合わせることを結婚に見立て、「私のような貝殻に合わせる貝はないです」と父親に断りを入れています。古語の「合はす」という単語には「二つのものを合わせる」という意味の他に「結婚する」という意味もあります。
「語り手の女性は昔から好きだった(けれども結ばれなかった)人を思って、父親に縁談を持ちかけられたのを断った」という歌詞解釈で訳しています。


「返す歌」


和歌のように歌詞を書くならば登場人物にも和歌の贈答でやり取りをして欲しかったので、歌詞の中の人たちは手紙の中に和歌を詠んで意思を伝え合っています。


「ふり積む想ひ こぼれ歌う」


「ふり」は「降る」と「旧(ふ)る(月日を重ねる)」の掛詞です。
元の歌詞「手紙に綴る」を「溢れだした思いが手紙に文字となって零れ落ちた」と解釈し、最初のサビ同様「水」の縁語になる言葉「こぼれ」と表現しています。歌うはSing a Songの歌ではなく、手紙に和歌をしたためる意です。


「袖も漬(ひ)ちて」


和歌の世界で涙を流す人は袖を濡らしたがるので。古典の世界で袖と言えば霊魂が宿るもの。恋の和歌で「袖を振る」という表現が多いように、人間同士の縁が関わる場面で「袖」は多く詠まれる語です。




【後書き】



Mili新作ミニアルバム『Hue』リリース決定おめでとうございます!
もう発売間近ですね。嬉しくて心臓も体もはち切れそうです。


今回の企画の話を知り、後先考えず「Miliの歌の中で一番古語訳したい歌を訳してみたい!」と参加してしまいました。場違い感……は気にしない方向で。


現代語の古語訳も、古語の現代語訳も、私がやるとつい意訳が増えてしまいます。
なんだか嫌だなあと思う方がいらっしゃったら申し訳ございません。


私が万葉・古今が大好きなのでそれらの和歌集における日本語表現について少し語りますと、伝統的な日本語表現っぽい言葉も実は最近の表現だったりするんです。(奈良・平安時代好きの私にとっての「最近」って感覚は江戸時代とかになってしまいますが)


例えば「花舞う」。いかにも日本語らしい表現です。しかし、万葉集や古今集の時代にはまだそんな表現の仕方がなかったのでしょうか、「花」が「舞う」と詠んだ歌は1つもありません。

万葉集だけで「花」の和歌は427例あるのですが、ほとんど「花咲く」「花散る」なんです。あとは「にほふ」「折る」「うつろふ」とかかな。(余談ですが、万葉集では「花」と言えば桜というより梅だったりします。)
なので、平安時代までの和歌表現の感覚で訳したいなーというのが今回の目標で、「この名詞が来たら、昔の和歌で一緒に詠まれている動詞の中から言葉を選ぼう」みたいな感覚で書いています。


最後に、私の未熟さに「片腹痛いわ!」とご気分を害されたらすみません。
Hueリリース企画、イラスト作品でも文章作品でも素晴らしい作品が沢山楽しめて、ファンの皆さんのMili愛をいっぱい感じられる素晴らしい企画だと思います。
まだまだ企画は続きますので、私も皆さんの作品に触れるのがとても楽しみです。


主催の春子さん、こまさん、素敵なイベント本当にありがとうございます。

Hueリリース企画・文章作品

Hueリリース企画は Miliの1stミニアルバム『Hue』 の発売を記念した ファンアート企画(非公式)です。 開催期間:2017/5/15〜5/24 小説・歌詞訳・詩など 個性的な文章作品が集結しています♪ ファン渾身の作品、必見です! Twitter【@hue_release_】掲載の イラスト作品も要チェック!

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