Kommen Süßen Tod mir von meinem lieben
by さゆ
「どうしてなの?」
全ては戻っていく。
「私は何を間違ったというのでしょう?」
“Utopisphere”は、この星を覆っていた甘美なる旋律はやがて終幕を迎える。忘れたはずの悲しみ、疑念の膿は再び波のように胸をさらっていくだろう。
ああ、愛しの君が泣いている。
しとしとと涙が頬をつたい壊れていく。
私は今まで世界のすべての悲しみを消してみせましょう、そう色々な人に言ってきました。
この世界は苦しすぎる。
すべての出会いには別れの影がつきまとう。
そして、別れた後、人はどうするかといえば、一人で生きなければならない。孤独に耐えて、惨めな思い出に毎日ふけって1日を過ごすのです。
ではなぜ、人は人と出会うのでしょうか? こんな辛い思いをするためでしょうか? それならばいっそ、心の奥底にすべて忘れて仕舞えばいい。お片づけをするのです。お城も夢も、希望も、子供の遊びはおしまいにして、ただただ何も望まなければどれだけの安寧を手に入れられましょうか。
そして、やっと私はこのような「哲学的な空想装置」を作り上げ、すべての悲しみを消し去れた、そう思っていたのです。
にもかかわらず今、この世界は、空想の楽園は崩壊への道をひたすらに進んでいるのです。
「何が悪かったのですか? ねぇ」
装置に私は問いかけますが、何も答えません。
ええ、そうでしょう。
そのように彼は作られたのですから。
無機質なスロットは何かを映すことはありません。ただ私の願いを叶えるだけの存在なのですから。
つるつるとしたその肌を撫でても、喜ぶことも悲しむこともありません。ただ私の指がそのあまりの冷たさに驚いてしまうだけでした。
彼は私が望めば何でもやりました。
しかし彼に何を教えても、何かを答えることはありませんでした。
曲の終わりがもう近づいてきている。
自らの傷を抉ることで生きる花も、お互いを殺すことで生きる二人も、食べられることのなくなったレトルトも、思い出で動くエンジンも、止まない航海を続ける船も、警告された脆弱性も、依存していくことで愛を失っていく人魚も、もう昇らない星々も、落ちていく船も、君の唯一の神も、理想郷も、天のミルクも、あの約束も、愛も真実も、託された旋律ももう過ぎた。
過ぎた時は戻らない。
もう一度巻き直すことはできても、その時にはもう同じ自分ではいられない。
彼の命はこの曲と、そして私たちの夢と同時に消え去っていくでしょう。消えた先には現実しかありません。ああ、辛い月曜日が始まる。一日中雨の降っている月曜日。もう一生出会わなくて良いと思っていたはずなのに。繰り返される毎日。
「何が悪かったのでしょうか?」
どうしてこの世界には終わりが訪れてしまうのか。
また彼は何も答えない。
ええ、そのはずだったのです。
『それでも君が愛してるなら、僕は悲しい過去も、辛い未来も守りたい』
初めて聞くその声は、金属を擦り合わせた悲鳴のようなものでした。
「…………!!!」
私は必死で彼の名前を呼びましたが、彼はもう何を答えることもありませんでした。曲は終わったのです。世界がガラガラと崩壊していく中、私は必死に考えました。
何が悪かったのでしょうか。
彼が叶えた私の望みとは何だったのでしょうか。
悲しい過去も、辛い未来も、私にはいらないはずだったのです。そんなものを守りたいだなんて、一体何を聞いていたのでしょうか。怒りの念さえ湧き出ます。
ただ、ここで一つ新しく革新的なことがわかったのですからよしとしましょう。
私がいる限り、完全なUtopisphereは訪れない。
私がいなければ、空想装置は生まれない。
ならば結論は一つ。
Kommen Süßen Tod mir von meinem lieben
親愛なる君より、甘き死を我が元に
再び曲を始めよう。
テープを巻き直せば、同じ物語がもう一度始まる。
【あとがき】
まず読んでくださった方、ありがとうございます。
いろいろあり、だいぶ短いものとなってしまいましたが、過不足なくKommen Süßen Todに関して書けたのではないかと思っています。
この曲はMiliのオリジナル曲でないのにもかかわらず、MiracleMilkというアルバムを締めくくる印象的な曲です。なぜ、その重要な場所にこの曲を添えたのか。その気持ちを少しでも汲み取れていれば、あるいは私がどう考えたのか伝われば何よりです。
最後に企画を遂行してくださったこまさん、春子さん本当にありがとうございます。企画のおかげでMili曲を全て通しで再構成することができた気がします。また機会があればよろしくお願い致します。
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